「お父さん、健康診断ちゃんと行ってる?」——この一言が、なかなか言えない。そんな方は少なくありません。経営者である親にとって、健康は自分だけの問題ではなく、会社と従業員の生活を背負う問題でもあります。しかし本人ほど、その事実から目をそらしがちです。この記事では、家族目線で「どこまで踏み込むべきか」の線引きを整理します。
なぜ経営者の親の健康は「家族の問題」なのか
会社員であれば、健康診断は労働安全衛生法にもとづき事業者が実施義務を負い、受診も半ば自動的に管理されます。ところが中小企業の社長本人は、この仕組みからこぼれ落ちやすい立場です。忙しさを理由に先送りしても、誰も叱ってくれません。
帝国データバンク「全国社長年齢分析」では、社長の平均年齢が長年上昇を続け、直近の調査では60歳を超えた水準が報告されています。つまり多くの中小企業では、健康リスクが高まる年代の方が、代替のきかない意思決定を担っているということです。
中小企業庁「事業承継ガイドライン(第3版・2022年)」でも、事業承継の準備には5年から10年程度を要するとされています。親の体調が崩れてから慌てて動き始めるのでは、この時間が確保できません。健康は、承継準備という長期戦のスタートラインを決める要素なのです。
家族が関わってよい範囲、踏み込みすぎな範囲
大前提として、受診するかどうかを最終的に決めるのは本人です。家族が決めることはできませんし、決めるべきでもありません。ここを取り違えると、心配が「監視」に変わり、親は口を閉ざしてしまいます。
関わってよいのは、たとえば次のような領域です。予約の日程を一緒に調整する。結果を「教えてほしい」と伝える。かかりつけ医の連絡先を家族も知っておく。服薬の有無を共有してもらう。いずれも本人の判断を奪わず、情報の共有だけを増やす行為です。
一方で、踏み込みすぎになりやすいのは、本人の同意なく医師に問い合わせる、診断結果を親族間で本人抜きに回覧する、健康を理由に引退を迫る、といった行為です。とくに最後の一つは要注意で、健康の話と経営権の話を同じ場で持ち出すと、親は「体調を口実に会社を取り上げられる」と受け取ります。話題は分けましょう。
切り出し方——「会社のため」ではなく「家族として」
言い方ひとつで、反応は大きく変わります。避けたいのは「社長が倒れたら会社が困るでしょう」という切り口です。正しいのですが、正しさは説得力になりません。本人は「まだ大丈夫だ」と反発するだけです。
おすすめは、家族目線の言葉に置き換えることです。「孫の卒業式まで元気でいてほしいから」「お母さんが心配してるから」。会社の論理ではなく、家族の願いとして伝えたほうが、はるかに届きます。
タイミングも重要です。決算期や繁忙期の真っ最中は避け、正月やお盆など、家族が自然に集まる場が向いています。また、「一緒に受けよう」と家族側も同じ検査を受ける形にすると、親だけが標的にされている感じが薄れ、応じてもらいやすくなります。
健康の話から、そっと承継の準備につなげる3ステップ
健康診断の話は、それ単体で終わらせるともったいない。次の3段階で、少しずつ準備につなげられます。
第1段階:情報の共有。受診の有無、かかりつけ医、常用薬。ここまでは「心配だから」で十分に切り出せます。
第2段階:もしもの手順。「入院することになったら、会社は誰が回すの?」と聞いてみる。承継の話ではなく、あくまで一時的な代行の話として尋ねるのがコツです。多くの経営者は、ここで初めて「決めていない」ことに自分で気づきます。
第3段階:紙に残す。取引銀行の担当者、主要取引先、実印や通帳の保管場所、顧問税理士の連絡先。これらを一枚にまとめておくだけでも、家族の負担は大きく変わります。「継ぐ・継がない」を決めなくても、今日から着手できる作業です。
日本政策金融公庫総合研究所の調査でも、後継者が決まらないまま廃業を検討する中小企業が相当数にのぼることが示されています。決断を先送りしたまま健康を損なうと、選べる道はさらに狭まります。逆に言えば、元気なうちに情報を整えておくだけで、選択肢は残せるのです。
家族だけで抱え込まないために
健康の話は、家族だからこそ言いにくい。そんなときは、顧問税理士や取引銀行の担当者など、第三者から自然に話題にしてもらう手もあります。「先生に言われたから」であれば、親もメンツを潰さずに動けます。
つぐひとでは、こうした「まだ何も決まっていない段階」のご相談を無料で承っています。継ぐか継がないかを決める前の、もやもやした状態のままで構いません。家族の立場から何ができるかを、一緒に整理していきます。
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※本記事は情報提供を目的としたものであり、医療上・法務上・税務上の助言ではありません。具体的なご判断にあたっては、医師・税理士・弁護士などの専門家にご相談ください。
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本記事は、株式会社C&Cが運営する事業承継メディア「つぐひと」が独自に作成したものです。
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