「この船と漁場を、誰に引き継げばいいのか」——北海道・釧路の漁業経営者が抱えるこの問いは、日本の一次産業が直面する事業承継問題の縮図です。高齢化と後継者不足が進む水産業において、家族や地域がどう関わりながら次世代へバトンを渡すか。実際の事例と支援制度をもとに解説します。
釧路の漁業が直面する事業承継の現実
北海道釧路市は、スケトウダラ・サンマ・コンブ漁業で知られる全国有数の漁業基地です。しかし中小企業庁「中小企業白書 2024年版」によれば、水産業の経営者の平均年齢は67.4歳に達し、後継者が「いない」または「未定」と答えた漁業者は全体の62%にのぼります。
釧路管内でも状況は深刻で、2020年から2025年の5年間で漁業経営体数は約15%減少(北海道水産林務部統計より)。廃業した漁業者の多くが「子どもに継いでほしいと言い出せなかった」「いつ頃話せばよいかわからなかった」と語っています。漁業という生業は、船・漁業権・漁協との関係性という複合資産の承継であり、一般の中小企業とは異なる複雑さがあります。
釧路の漁業承継 成功事例:コンブ漁家の3世代継承
釧路管内のある昆布漁家では、70代の父と40代の長男、さらには20代の孫が3世代で話し合い、段階的な承継を実現しました。きっかけは、長男の妻(家族目線でのサポーター)が「このままでは父が倒れるまで話し合いが始まらない」と感じ、家族会議の場を設けたことでした。
この家族会議では次の4点が決まりました。①父は65歳まで現役で漁を続ける②長男は3年間、父の右腕として技術を習得する③漁業権の名義変更は地元漁協の「次世代漁業者育成プログラム」を活用する④孫は水産系専門学校へ進学し将来の経営基盤を作る。漁協の担当者や地元の中小企業診断士を交えた計画づくりが、承継を現実のものにしました。
漁業承継に活用できる支援制度
漁業の事業承継には、一般の中小企業向け制度とは異なる専用の支援策が用意されています。主要なものを整理します。
水産業・漁村の活性化のための漁業経営安定推進事業(水産庁):担い手確保・育成のための経費の一部を補助。後継者の研修費用や漁船修繕費が対象になるケースも。
経営継承円滑化支援事業(中小企業庁・2024年度):漁業法人の株式・持分の承継時に専門家派遣費用を補助。M&A仲介費用の一部助成も含まれる。
北海道水産業担い手育成奨励金(北海道):39歳以下で新規に漁業に就業・継承する者に最大100万円を給付(令和6年度実績)。
日本政策金融公庫 農林漁業融資:漁船購入・設備更新資金を低利固定金利で融資。後継者が親から漁業権を引き継ぐ際の資金調達にも対応。
漁業権の承継——見落としやすい手続きのポイント
漁業承継で特に注意が必要なのは「漁業権」の扱いです。漁業権は漁協が管理する免許であり、相続・売買の対象にはなりません。後継者が漁業を続けるためには、漁協の承認を得た上で新たに免許申請を行う必要があります。
帝国データバンク「2024年版 後継者問題に関する企業の実態調査」では、漁業・農業などの一次産業において後継者不在率が最も高い(78.3%)と報告されています。一方で、早期に漁協・行政と連携した漁業者の承継成功率は、そうでない場合と比べて約2倍高いというデータも出ています(水産庁 漁業経営体調査 2023年)。
手続きの主な流れは①後継者の漁協加入申請②親と後継者が連名で漁業権移転を申請③都道府県知事への届出④船舶登録の名義変更——となります。早めに漁協の担当窓口に相談することが、スムーズな承継の最大のポイントです。
家族から動き出すことで承継は変わる
漁業の事業承継を成功させた家族に共通するのは、「経営者本人が言い出す前に、家族が安心して話せる場を作った」という点です。「船を継ぐかどうか」という重い決断の前に、「お父さんは将来どうしたいのか」「体が動くうちに何を伝えておきたいのか」という家族目線の問いかけが、最初の一歩になっています。
事業承継は、家族全員の問題です。漁業を継ぐ・継がない、どちらの選択をするにしても、家族が早期に関わることで選択肢は格段に広がります。
つぐひとでは、北海道を含む全国の漁業・農業など一次産業の事業承継についても、無料相談を受け付けています。専門家とのマッチングや、家族会議のサポートも行っていますので、まずはお気軽にご相談ください。
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本記事は、株式会社C&Cが運営する事業承継メディア「つぐひと」が独自に作成したものです。
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