「兄弟の誰が会社を継ぐのか」――経営者の子どもが2人以上いる家庭では、遅かれ早かれ避けて通れない話題です。誰が継いでも角が立ちそうで、切り出すタイミングを逃したまま時間だけが過ぎている、というご家庭も少なくありません。中には、話し合いを避けているうちに親の体調が急に変わり、なし崩し的に長男・長女が継ぐことになって、他の兄弟との間にわだかまりが残ってしまったという声も聞かれます。今日は、この問題を家族目線で、対立ではなく協働の形で後悔なく決めるための考え方を整理します。
「誰が継ぐか」問題、なぜここまで難しいのか
帝国データバンクの調査によると、2025年に代表者交代が行われた企業のうち、血縁によらない役員・社員を後継者とする「内部昇格」が36.1%となり、これまで最多だった「同族承継(親族内承継)」の32.3%を初めて上回りました(帝国データバンク「全国『後継者不在率』動向調査(2025年)」)。同族承継が当たり前ではなくなりつつある背景には、経営者としての適性だけでなく、兄弟間の公平感や気持ちの整理の難しさも影響していると考えられます。能力や意欲に差がなければないほど、「なぜあの子が継ぐのか」という感情の問題が残りやすいのです。
決める前に、家族でそろえておきたい前提
誰が継ぐかを話し合う前に、まず家族全員で共有しておきたい前提が2つあります。1つ目は、経営者自身の「本音」です。誰に継いでほしいのか、あるいは特定の子に固執していないのかを、親自身の言葉で確認すること。2つ目は、会社の現状、つまり借入や個人保証、資産状況を家族に開示することです。情報が偏ったまま話し合うと、「継ぐ側」と「継がない側」の対立になりがちですが、事実を共有できれば、協働で最善の形を探す話し合いに変わります。誰か一人だけが情報を握っている状態を避け、必要であれば顧問税理士など第三者に同席してもらうのも、感情的な対立を防ぐための有効な手段です。
後悔しない決め方、5つの視点
実際に決める段階では、次の5つの視点で考えると整理しやすくなります。1つ目は本人の意欲、継ぎたい気持ちが本当にあるかどうか。2つ目は経営者としての適性、これまでの資質や実務経験。3つ目は配偶者や子どもを含めた生活設計への影響。4つ目は継がない側への資産・株式の配分方法をどう納得感のある形にするか。5つ目は、継いだあとも兄弟としての関係をどう維持していくかという長期的な視点です。長子だから、同居しているから、地元に残っているから、といった単純な基準だけで決めてしまうと、経営者としての適性が伴わないまま重責を背負わせることになり、後々の火種になりやすいことにも注意が必要です。1つの正解を急いで探すのではなく、家族で何度か話し合いの機会を持ちながら、5つの視点それぞれについて全員の認識をすり合わせていく進め方が、結果的に一番の近道になります。
遺留分と株式の分散という、見落としがちな法律の壁
誰が継ぐかが決まっても、もう一つ大きな壁があります。それが遺留分です。後継者に自社株式を集中させようとしても、他の相続人の遺留分を侵害すると、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを求められ、結果として自社株式や事業用資産を手放さざるを得なくなるケースがあります(中小企業庁「経営承継円滑化法」による民法特例の解説資料より)。同法では、後継者と推定相続人の間で遺留分に関する合意を結ぶ特例制度も用意されています。「平等に分けたつもり」が、かえって会社の存続を脅かすこともあるため、早い段階で専門家を交えて制度を確認しておくことをおすすめします。誰か一人にすべての株式を集中させることだけが「正解」ではなく、経営権は後継者に、それ以外の資産は他の兄弟にといった形でバランスを取る方法も含めて、選択肢は複数あります。大切なのは、家族だけで法律面の判断まで抱え込まず、早い段階で専門家に相談することです。
「誰が継ぐか」は、一度の話し合いで決着がつくものではありません。時間をかけて、家族全員が納得できる着地点を探していくプロセスそのものが、その後の兄弟関係を支える土台になります。つぐひとでは、ご家族で事業承継について話し合う際に役立つ無料ハンドブックをご用意しています。無料ハンドブックをダウンロードする。兄弟間の話し合いの進め方や制度の使い方について具体的にご相談されたい場合は、無料相談フォームからお気軽にお問い合わせください。日々の事例やヒントを配信しているLINEもぜひご登録ください。つぐひとLINEに登録する。ご家族の立場に応じて、家族の方向けページ、オーナーの方向けページ、後継者の方向けページもご覧いただけます。
※本記事は情報提供を目的としたものであり、遺留分や相続、株式承継に関する具体的な判断については、税理士・弁護士など専門家へのご相談をおすすめします。
関連記事
本記事は、株式会社C&Cが運営する事業承継メディア「つぐひと」が独自に作成したものです。
具体的な税務・法務判断は、必ず弁護士・税理士・M&Aアドバイザー等の専門家にご相談ください。